現在医療で使用されている,または研究段階にある薬剤からがんを縮小する効果のある薬剤を選び出す手法を薬剤スクリーニングと呼んでいます。これまでのがん細胞の培養法は,患者由来のがん組織から樹立する効率が低く、性質が限定された既存のがん細胞株でしか薬剤スクリーニングを行うことができませんでした。

 我々が開発したオルガノイド培養法により培養がん細胞の樹立効率が飛躍的に上昇し,個々の患者さん由来の組織検体から様々な種類のがんオルガノイドを樹立することが可能になりました。このがんオルガノイドに数百,数千種類という多数の薬剤をふりかけることにより,がん細胞を殺傷する効果があるかを網羅的に検討する手法(ハイスループットスクリーニング法)を確立しました。オルガノイド培養法は、がん細胞だけでなく正常の細胞も培養することができるため,がんには効果があるが正常の細胞に影響がない,副作用の少ない薬剤をスクリーニングすることも可能になりました.

 また、がんオルガノイドからDNAやRNAを取り出し,がんに特有の遺伝子変異・遺伝子発現などを調べる次世代シークエンス解析、遺伝子発現解析、コピー数多型の結果と併せることで、これまでの細胞株だけでは見つからなかった新しい臨床バイオマーカーなど新たな発見が期待されています。このような細胞レベル(In vitro)の解析に加え、がんオルガノイドを免疫不全マウスに移植し薬剤を投与し,生体内(in vivo)での効果を確認する解析や、実際の患者さんのが治療で投与した抗癌剤の治療効果を(臨床データ)との比較も行っています。このように、オルガノイド培養法を薬剤スクリーニングに応用する取り組みにより、研究分野の裾野を広げると共に、実際の患者さんに対してそれぞれにあった治療方法を提案する個別化医療への実現も目指しています。